閃光花火
[閃光花火](1/30)

 人間の胸に花火≠見ることができる人を知っているだろうか。
 ぼくは、一人だけ知っている。
 それは誰でもなく、ぼく自身である。
 花火が見えるようになったのは、ある日の夜のことだ。
 ぼくはかなり視力が弱いので、ほとんどの時を、メガネをかけて過ごす。
 メガネを外すと、カンバスに水を落としたように景色が滲んでしまう。
 あまりに目が悪いので、メガネがなくてはろくに外を歩くこともできない。 
 ふと、闇夜の中を、街燈を頼りに裸眼で歩いてみたいと思った。
 どうしてそう思ったかなんてさっぱり分からない。
 しかし、すぐさま実行してみることにした。
 ぼくは思い込んだらすぐさま行動しないと気が済まない質だ。
 学校からの帰り道、本屋に寄って時間をつぶした。
 そして、日が落ちて、辺りが真っ暗になったところで店を出た。
 冷めた空気が、つんと鼻をついた。
 口や鼻から出た息が、白く染まる。
 もう、すっかり寒くなった。
 ぼくはため息をついて、メガネを外した。
 眼に映るもののすべてに、もやがかかった。
 一寸先も見えないくらいである。
 辺りを見回しても、ろくに見えやしない。
 信号機のライトが、薄い霧を纏いながら輝いていた。
 眼を細めると、ようやくなにかが目の前を通過してゆくのが見えた。
 ぼくは歩き始める。
 メガネというものは不思議だ。
 あんな、牛乳瓶の底のようなレンズを通しただけで、世界をくっきりと見ることができる。
 でも、なんとなくそれは本当の世界じゃないように、ぼくは思う。


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