あの頃に戻れたら
[あの頃に戻れたら](1/11)

    †
「今夜、一緒にお祭りにいかない?」
 幼馴染の舞谷鈴子(まいたに・りんこ)から、そんな電話が舞い込んできたのは、夏盛りの昼のことだった。
 断る理由はなかったので、俺はいいよ、とすぐさま了承した。
 最近はずっと自宅に閉じこもりっきりで宿題のレポート作成に追われていたので、久々に外へでて、気分転換をはかるのも良いだろう。
 それに、鈴子からの誘い、というのも断れないポイントの一つだ。
 彼女とは家が隣同士で、中学校までは毎日一緒に登校する仲だった。
 しかし、どこをどう間違えてしまったのか、高校は別々になってしまい、以降卒業までの三年間は、たまに顔を合わせるだけの間柄になってしまった。
 鈴子との交流が少なくなった俺は、どこか空虚な気持ちを抱えたまま、なんとなく地元の大学へ進学した。
 内心、彼女との交流が復活することを諦めてしまっていたが、何の申し合わせか、彼女も俺と同じ大学へと進学していた。
 学科もクラスも同じだったが、三年間のブランクはやはり大きかったようだ。
 たまに顔を合わせても会釈するくらいで、入学してからこの数ヶ月、彼女とまともに会話すらしていなかった。
 そんな彼女からの、まさかのお誘いである。
 俺も彼女も、まだ交流が微かにあった高校一年生の頃に携帯電話を持てるようになり、互いに連絡は取れるようにしていたのだが、それで連絡を取り合っていたのは、せいぜい高校一年目だけで、二年になるころにはとんとご無沙汰になっていた。
 連絡を取ることがなくなったその二、三年の間、彼女のことを考えない日はなかったように思う。
 気がつけば、彼女はどうしているだろうか、元気にしているだろうか――そんな風に、思いを馳せていた。
 気になるのならば、メールでも送ればすぐに済むというのに、どうしてか、それができなかった。
 なにか気の利いた文章を書こうとしても思いつかなくて、結局、
『久しぶり。元気? 最近、どうしてる?』
 なんて簡単な内容のメールしか作成できなくて、そして、それすらも送信することができない。
 送信のボタンを押す、そのちっぽけな勇気がどうしても出せなかった。
 そのくせ、彼女からの連絡を、ずっと待っていたりした。
 彼女も、もしかしたら、俺と同じようなことを考えているのかも知れない、ちっぽけな勇気を振り絞って、連絡をくれるかもしれない……なんて、ばからしい淡い期待を抱きつつだ。
 結局、彼女からのメールが届くことはなかった。
 やがて、俺ばかりが、彼女のことを考えているような気がした。
 彼女は、俺のことなんてもう忘れかけているのかもしれない。
 そんな空しい気持ちに包まれていた頃、思い出したかのように舞い込んできた、彼女からの連絡。
 彼女からすれば、単なる義理での連絡なのかも知れないが、それでも、一抹の期待を抱かずには、いられなかった。
 待ち合わせまでは、あと数時間。
 それが、今からひどく待ち遠しい。

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